不知敗が知ったこと



 いくら世間知らずの私だって、先生が私にいけないことも教えているのは分かる。少なくとも劉師父は、私の胸を触ったりなんかしなかった。
 もっとも、もう私と先生は生徒と家庭教師ではなく、婚約者同士なのだからいけないことなんてないのだけれど。でも先生にああいうことをされるたび、少しだけいけないことをしている気になる。そしてその気が、更に私をドキドキさせるのだった。
 私の今の肉体は、劉師父の指導と、自分での鍛錬の成果で練り上げられたものだ。でも最近、そこに一つ要素が加わったと思う。それが先生だ。先生は武術家ではない。喧嘩をしたことがあるかすら怪しいと思う、優しげな人だ。でも、先生の行動が、確かに私の肉体を変えてしまった。
 だって、前まではこんなことはなかったのだ。
 一人でいる時に、胸の先やおなかの奥が疼くことなんて。
 一日の雑務を終えて、お風呂に入り、あとは寝るだけだった。お風呂の時はもちろん、寝る時は拘束具をつけない。睡眠時の不意を打ってくる刺客さんには、ハンデを与えるのは危険だった。
 パジャマを着て、ベッドに横になる。今日一日のことを思い出すと、そのほとんどが一つの、いや一人のことに占められていた。先生。
 今日も、沢山キスしてしまった。色んなところを触られてしまった。でも、先生は肝心な所には触れない。私を大事にしてくれている。それが心ではとても嬉しくて――体が少しだけ切なかった。この体は先生に作り変えられたものだ。先生は私を、みだら、に、してしまった。
 先生の記憶が、現実の私にも影響を与えた。まるで触れられているように、体が熱くなってくる。火照って、くる。
 たまらなくなって、私は手錠から解放された手で、自分の胸のふくらみに触れた。先生のやり方を真似て。恥ずかしい、自分でこんなことをするなんて私はなんてはしたない女の子なのだろう。でも、きもち、よかった。
 握った胸から押し出されるように、熱く湿った吐息が漏れた。私の胸の触り心地はどうなのだろう。固くはない、と思うのだけれど。先生があんなに触ってくれるのは、きっと好いてくれるのだと思うようにする。
 夢中で胸をまさぐっていると、手の平に、少し硬いグミのようなものが当たり始める。私の体が切なくなっている証拠。先生に直接胸を触ってもらっている時、これを知られてしまうのが消えてしまいたいくらい恥ずかしく、いやらしいと軽蔑されないか怖く、けれど体はここを触られるともっと気持ち良くなると分かっていた。
 尖りを、そっと摘む。
「っ……ぁ」
 吐息に声が混じった。じんとした熱が広がる。気功術に少し似ていて、でもそれよりももっと、淫靡なにおいのする熱。私はそれを何度も生み出す。くりくり、くりくりと、誰にも見せられないことを熱心にする。
 胸の先から、熱が体中を満たしていく。胸にたまった熱は、乳房をパンパンに膨らませているようで。頭にたまった熱は、私の理性をドロドロに溶かして。そしてお腹の奥にたまった熱は、マグマみたいにもっと熱くなって、なって、漏れ出しそうになって――私は、みだらな私は、我慢がきかなくなった。
 お腹の奥の熱が出ようとしている場所、誰にも見せたことのない場所、脚の、付け根の、私の少女、に手を伸ばす。
「先生っ……」
 愛しい人を呼ばないと、いけないことをしている自己嫌悪に潰れそうで、でもこんなことをしながら呼ぶことにも自己嫌悪を感じた。そして私はそれすらも悦びに変えてしまう。
 触れたそこは、しっとりと湿っていた。武道を学ぶ上では自分の体を隅々まで知っていなければならない。当然、そこの作りも知っていた。裂け目のあわいに指を潜り込ませる。背筋を、他に類がない感覚が走った。
 ゆっくりと、指を上下させる。ここは柔らかな場所だから、慎重に。何度も、何度も行き来させている内に、ここにも尖りが感じられた。胸のそれよりも小さな、けれどずっと敏感な芽。私の体を一番みだらにしてしまう部位。
 きゅ、と軽く押した。
「んあ、ぁっ!」
 一段高く、大きな声が体の奥から出てしまった。その自分の声が恥ずかしくて、けれどそれにますます興奮している自分がいた。
 神経がむき出しになったかのような尖りを、つつき、つまみ、揉み、撫ぜる。そのたびに私の体は敏感に反応し、ピクリピクリと震える。小さくも固くなってきたそこから生み出される熱、いや、もはやはっきりと快感になった物で私は、たまらなくなる。
 きもちいい、きもちいいよう、なのにたりない、せんせいが、せんせいがほしい!
 じゅわっという感覚がして、私の少女の中心から、たまりにたまった熱が恥ずかしい液体として流れ出したのが分かった。それはほとんど無色だけれど、きっと視覚ではない感覚にはとても卑猥な色が感じられるのだ。
 小指を、そこにそっと差し込む。慣れていないそこは、一本でも僅かに痛みを感じる。快感はない。ただ、ぬるぬるした感触が、無性にいやらしいと思う。
 湧き出た液体を指に塗りつけ、尖りをまた弄る。もてあそぶ。修行の中でも激しいものをしている時のように呼吸が荒い。中心に差し込んだ指も、少し動かす。やはりまだ気持ち良くはないけれど、とてもいやらしいことをしている実感がよかった。
 クチュ、と水音が聞こえて、私はいやいやと首を振る。自分でやっていることなのに。抵抗するかのように振舞うのが気持ち良かった。先生に、抵抗できないようにされたかった。
 もう私の頭も体もみだらなことで、先生に教えられたことで満杯で、他のことは考えられなかった。必死で、脚の間の器官をまさぐる。そこから絶え間なく生み出される快感に溺れる。
 きもちよくて、きもちよくて、私の目から少し涙が流れる。どんどんきもちよさが増していく。どんどん水音が激しくなっていく。
「あっ、んあぁっ、は、あぁぁ……!」
 けばけばしい色に染まった声も抑えられない。手の動きもどこまでも強くなる。腰が自分の物じゃないように動いて、くねって、もう、もう、わた、し――
「あっ、っく――――!」
 真っ白に、何かが爆発した。背中が反り返って、びくりびくり、体が痙攣して、呼吸が停止と深呼吸を繰り返して、私は、また一人で、どこかに達してしまった。
「はぁ、はぁ、は……」
 何度かの体の痙攣を越えて、呼吸が少し楽になってから、恥ずかしい場所から手を抜く。べっとりと濡れていた。それを私は、きっととろとろにとろけきってしまった顔で見つめる。私が人には言えないことをしていた証。でもそれは、先生に体を変えられているという証。あまり綺麗とは言えない場所から出たにもかかわらず少し愛しくて、舌先で舐めたら変な味がした。
「……もう一度、シャワー浴びないとだめですね」
 億劫だったが、のろのろと体を起こしてバスルームへ向かう。
 一人だけのいけない行為を流し落とすために、また明日先生にもっとみだらにしてもらうために、少し熱めのシャワーを体に浴びた。




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